新学部設置に先立ち、同校で1回目のミニ講義・座談会が開かれた。
今回は星野高校新聞部の3人が来校。獣医師で同学部の教員として着任予定の本岡正彦氏と、愛玩動物看護師の正木恭子氏が登壇し、科学的な視点で、動物の感覚やコミュニケーションの仕組み、人と動物の共生などについて話した。
本岡先生は講義で、身近な動物を例に生き物のコミュニケーションや人との共生、進化などを伝えました。例えば、犬がよく穴を掘るのは、野生の狼が寒さや暑さを避けるために地面に穴を掘っていた名残だと紹介。犬や猫などの事例を用いて、生命科学の魅力を届けました。
猫の行動については「高所に登る行為は、敵から身を守るという行動です」と解説しました。しかし、現代の猫は人間との生活で大事に守られてきたことで、高いところに登っても降りられなくなる事象があります。高所から着地する能力が衰えてしまっていることもあるといいます。「降りられなくなって動物病院に電話がかかってくることがある」と獣医師としての経験を口にしました。
特性活用が進む犬の生態
「犬にはなぜ、人間のような言葉がないのだと思いますか」。 講師として登壇した本岡先生は生徒3人に投げかけました。
犬は人間の言葉が分かるかのように振る舞うことがあります。人間の言葉を理解していると感じてしまいますが、「犬は絶対音感と言われています。人で表現するとすべての音がドレミに聞こえるものです」と本岡先生は話します。飼い主が言った『おはよう』と別の人が言った『おはよう』は人間にとっては同じ言葉でも、犬にとっては別の言葉に聞こえるそうです。本岡先生は「言葉の意味を共通認識することはできない。これが犬の聴力の世界」と説明します。
一方で嗅覚はとても優れており、犬は「99・9%の情報を嗅覚から得る」そうです。人は情報の95%を視覚からとらえているため、それだけでも人間と大きく異なります。「例えば、人間は公園に行くと『あ、緑がきれいだな』と思うけど、犬はそういう認識はなく、『公園のにおいだ』と思っているはず」と説きます。
このような犬の特徴を社会に生かそうとする取り組みが進んでいます。有名な例では警察犬や麻薬探知犬、盲導犬などがいるますが「人間の病気を嗅覚で発見する」ことも講義で紹介。人の汗や尿のにおいから、コロナウイルスに感染しているか、がんを患っているかが分かるようになってきているといいます。
一方で、本岡先生は課題も指摘。「群馬県内で盲導犬として登録されている犬は一頭しかいないのです。育成するのはそのくらい大変」と育成の難しさを語りました。
犬と人の絆を医療にも応用
講義ではペットと人間という、より身近な観点からの事例も挙げて考察を深めました。
アメリカの研究者、エリカ・フリードマン氏が1980年に発表した研究では、ペットを飼っている心臓疾患者の生存率は飼ってない人に比べて高いという結果が出たといいます。また、別の研究者らの調査では、ペットに触れることで血圧が低下するというものやペット飼育者の血中コレステロール値と中性脂肪値、収縮期血圧が非飼育者に比べ低いとする研究結果も。本岡先生によると、「犬の散歩による運動のおかげではないか」という指摘もありましたが、猫でも同じような健康効果があるとされています。
ペットと飼い主の幸せホルモンについても研究で明らかになっています。犬が飼い主を見つめると幸せホルモンの「オキシトシン」が飼い主の体内で増え、飼い主が犬をなでたり話しかけたりすると犬のオキシトシンも増えるというのです。犬と人間に固い絆のようなものが存在するこの研究結果を、本岡先生は「動物行動学では、これは大発見」と話しました。
この“犬と人間の絆”を応用した事例があります。アメリカの病院では病棟を犬が巡回する「ファシリティドッグ」という制度が広まっており、手術前や採血時などの子どもを落ち着かせる役を担っています。「犬と人間は固い絆で結ばれている。そういう動物たちを医療の現場で活用しようとする制度です」と本岡先生は話す。日本国内でも導入事例がいくつか出てきました。
このような事例を挙げて、動物と人の関係性や生命科学について解き明かした本岡先生は、動物の気持ちが分かればもっと動物を理解できるかもしれないと締めくくりました。そして「この学問は動物に対する気持ちや動物によって受ける影響を科学で解き明かそうとするものです。ぜひ皆さん一緒に科学を学んでみましょう」と呼びかけました。
質問コーナー
講義終了後の質疑応答の一部をご紹介します
- ニュースで冬眠しない熊の話がありましたが、最近の熊が進化した可能性はありますか?
- 冬眠しない一番の理由は(進化ではなく)異常気象です。冬眠期間の温度の上昇が原因と言われています。それからエサが不足しているため冬眠するだけの蓄えがなく、街に出てきてしまいます。このような原因で冬眠しないということです。
- 犬と猫は仲が悪いと聞いたことがあります。なぜですか?
- 犬と猫の性格を代表する表現があります。犬は人がご飯をあげると「ありがたい。この人は神様だ」と思います。でも猫は「なんでこの人はご飯をくれるのだろう。きっと私が神様なんだ」と思う。そのくらい性格が違います。全く性格が違うから合わないこともあるでしょう。でも私が飼っている犬と猫は仲がいいですよ。
- 医師には眼科や耳鼻科などの診療科がありますが、獣医師は多様な動物をどう診ているのですか?
- 実際は無理です。扱えません。実は最近、獣医師も専門に分かれ始めました。だから動物園の獣医師は本当に大変だと思いますよ。
- 犬も透析はできますか?
- 透析はできます。腎臓移植もやりますよ。移植をするまでの間に人工透析をするというのもできるようになってきました。
- 人は移植の許可が必要ですが、犬はどうするのですか?
- とてもいい質問です。新しい腎臓は保護犬から提供してもらいます。提供を受ける代わりに飼い主はドナーの犬と移植を受けた犬の両方を生涯にわたって面倒を見ないといけません。それが移植の条件です。
- これから学んでいく上で大切にした方がいいことはありますか?
- 【本岡先生】学びは真似です。先輩や先生の真似からです。獣医師の世界にも「神の手」「手術の神様」みたいな人がいますが、そういう人は手先が器用なのではなく、手術が上手い人の真似を100%できる人です。なので、勉強で一番大事なのは「最初は真似る」ということ。そこからオリジナルが出てくる。まずは本などをしっかり読んで学んで、基礎を蓄えてほしいなと思います。
【正木先生】学ぶことを続けてほしいと思います。どんな職業を選んでも、なって終わりではなく、どんどん新しいことを覚えていかないといけません。覚えると新しい発見もありますし、初めて経験することも出てきます。学ぶことの楽しさを忘れずにいてほしいです。
生徒3人の感想
- 菅芽衣さん(17)2年生 新聞部 理系コース
- 普段は生物を選択している。生物の授業では学べない部分もあった。犬や猫は自分にとって一番身近な動物で、祖母の家では飼っていた。人と動物の関係など、今日得た知識を生かして(動物と)共存していきたい。
- 中原愛梨さん(17)2年生 新聞部 理系コース
- 物理を選択している。生物の話を聞くのは久しぶりだったことに加え、テーマが新鮮でただただ楽しんで聞くことができた。将来働く上で、動物が仕事の新しいカギになるなら、もっと関わってみたい。
- 金井夏楓さん(16)1年生 新聞部 医専コース
- 病院での動物との関わり方に興味を持った。人間だけでなく犬にも幸せホルモンが出るということで、Win-Winな関係というのはとてもいい。共生していく中でうまく折り合いをつけ、人と動物の関係を研究でもっと改善していければいいと思った。

![SERIES 01 [UHAS × 星野高校新聞部]動物の不思議・人との共生を考えてみた!](https://press.human.ac.jp/press_wp/wp-content/themes/uhas-press/assets/img/series/01/header_series01.png)
